先日、東大の授業料が2割値上げされるニュースが発表されました。
東京大学は10日、2025年度に入学する学部生から授業料を2割値上げし、現在の年間53万5800円から64万2960円とする方針を明らかにした。東大の学部授業料値上げは20年ぶりで、早ければ9月末の学内会議で正式決定する。
(中略)
一方、東大は家計が苦しい学生への支援策を拡充し、授業料全額免除の対象を、現行の「世帯年収400万円以下」から「600万円以下」とする。「900万円以下」の学生についても、個別の事情に応じて授業料を一部免除する。
東大が授業料2割値上げへ、全額免除の対象は拡大…他の国立大へ波及の可能性も
この、東大の授業料が2割値上げされるというニュースが先日報じられ、多くの反響を呼びました。この決定に対し、SNSでは反対の声が目立っていますが、私が感じたのは、年収600万円の家庭が果たして支援を受けられるのかという問題です。
私は、年収400万円の家庭の方が、学校を選ぶ際に支援が受けやすいため、逆に東大に進学しやすい可能性のではないかとも思いましたが、こうした視点を話題にしている人はあまり見かけませんでした。
そこで今回は、なぜ年収600万円の家庭が、年収400万円の家庭よりも東大進学が難しいと考えるのか、その理由をまとめたいと思います。
- もちろん、今回の話はあくまで「東大」に絞ったものです。他の国立大学や私立大学の学費値上げに関しては、また別の議論になるかと思います。
- 900万円以下の学生でも同様のケースもあるかと思いますので、”個別の事情に応じて授業料を一部免除する。”の箇所はかなり緩い基準であってほしいと思っています。
年収600万と年収400万の家庭の違い
まず、議論を進める前に、年収600万円と年収400万円の家庭が持つ特徴について簡単に比較しようと思います。この違いは、東大進学の難しさを考える上で、重要な前提となるからです。
年収400万円の家庭は経済支援を受けやすく、進学選択が広がる
シングルマザーやシングルファーザーなど単身で子育てをしている家庭が多く、給付型奨学金のような経済的な支援を受けやすい傾向にあります。
そのため、進学時には奨学金や各種支援制度を前提とした計画を立てやすく、学費の負担を軽減できる点が大きなメリットです。
年収600万円の家庭は支援の対象外となりやすい
一方で、年収600万円の家庭では、夫が働き、妻が専業主婦という家庭構成が多い場合があります。
この家庭では、表面的には収入が年収400万円の家庭よりも高いものの、支援制度の対象外になることが多く、学費や進学に関する経済的な負担を自力で賄わなければならないケースが多いのです。
また、「家計はなんとか成り立っているから奨学金は借りたくない」といった心理的なハードルも、600万円の家庭に特有のプレッシャーとして存在します。
年収400万の家庭よりも、年収600万の家庭が東大に行くことが難しいことは、統計にも出ている
2021年度に実施された東京大学の学生生活実態調査では、
- 年収が450万円未満の学生の割合は10.8%
- 年収が450万円以上750万円未満の世帯の学生は11.2%
と記載されています。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/students/edu-data/h05.html
一見すると、450万円以上750万円未満の家庭の方が東大進学者が多いように思われますが、その割合は450万円未満の家庭とほとんど差がありません。
つまり、年収450万円以上750万円未満の家庭において、東大が進学先として選ばれにくい現状を示していると考えられます。
2021年の平均世帯所得は545万円であるため、450万円以上750万円未満の家庭は非常に多いと推測されますが、この層の東大進学者が少ないことが際立ちます。
これらのデータからも、中途半端に見える年収600万円の家庭だとかえって進路選択の幅が狭まっている現状があるのです。
私が考える、年収400万の家庭よりも、年収600万の家庭が東大に行くことが難しい理由
ここからは、年収400万の家庭よりも、年収600万の家庭が東大に行くことが難しい理由について、具体的に紹介していきます。
1. 年収600万の家庭だと経済的支援を受けにくい
年収400万の家庭に比べ、年収600万の家庭は表面上、経済的に余裕があるように見えます。しかし、現実にはその「中途半端な年収」がかえって進路選択を狭めてしまうことが多いです。
年収400万の家庭は、経済的に困難な状況が明確なため、給付型の奨学金をもらえたり、経済的支援を受けやすい一方、年収600万の家庭は支援対象にならないことが多いです。
最近、30歳にしてはじめて、東京に地元の県人寮が存在することを知りました。経済的支援が用意されているものの、情報が入りにくいことで、自然と諦めてしまうケースも多いのではと思われます。
2. 心理的プレッシャーの影響
年収400万円の家庭では、奨学金や支援制度を利用することが前提となります。
たとえ進路に関して迷いがあったとしても、どっちみち奨学金を借りることになるので、挑戦してでも好きなことを学びやすいように思います。
一方、年収600万円の家庭では、「奨学金を借りたくない」「浪人を避けたい」という思いから、確実な進路を選びたくなる傾向が強まります。
その結果、浪人覚悟で東大を目指すよりも、推薦で私立大学に進学したり、地方の国立大学に進学したりするような、確実な進路を選ぶケースが多いです。
私は女子大出身ですが、浪人生がかなり少なく、会話をしているだけでもかなり優秀だと感じる人も多かったです。東大は難しいかもしれませんが、浪人すれば慶應や早稲田に合格してもおかしくない人が沢山いました。
3. 貸付型の奨学金を借りさせたくない親も多い
600万円の家庭は貸付型の奨学金を借りることに抵抗がある家庭も多く、その結果、進学先を経済的理由で諦めさせるケースが見られます。
貸付型の奨学金を借りる前提なら、学費が高くても将来的に自分で返すため、学費を気にせずに学校を選びやすいです。
一方で奨学金を借りない場合は、学費の負担が家庭の負担になるため、なるべく学費がかからない進路を選びがちです。
また、高額な学費を避けるために親が無理をして働くこともあり、子どもが「親に負担をかけたくない」と感じて、進路を制限することがあります。
音大に進学した知り合いが、大学に行くために家を売った話も聞いたことがあります…
東大は、学費そのものは安いものの、東大に行くまでにかかる費用や、落ちた時には高額な私立大の学費(または予備校代)がかかります。
こうしたジレンマが、年収600万円の家庭特有の問題として存在しています。
中途半端な層にこそ必要な支援
年収400万の家庭は柔軟な進学選択ができる一方で、600万円の家庭は支援を受けにくく進学の選択肢が狭まります。
年収1000万の家庭が想像する以上に、年収600万の家庭では制限が多く、中途半端な層に対する支援として有効な施策といえるでしょう。
どの家庭の子どもも、経済的背景に縛られることなく自分の夢を追いかけられる社会を目指すことが必要です。
支援策が中所得層にも適用されることで、真の公平な教育の機会が実現するのではないでしょうか。